総論
とはいえ、素のロードスターよりもロードスターRFが“よいロードスター”とは言えない。走りの軽快感であれば、重心が低く、軽量なソフトトップモデルのほうが上だ。また、ロードスターRFは、サーキット走行など本格モータースポーツに必須のロールバーを装着することもできない。2リッターエンジンは、1.5リッターよりもパワーがあるが、それはロードスターの本質ではない。過去にロードスターはターボ付きのモデルをリリースしたが、さっぱり売れなかった。つまり、ロードスターを求めるユーザーにとって、パワーは、それほど重要な要素ではないのだ。
そういう意味で、ロードスターRFは魅力的なモデルではあるけれど、素のロードスターの上に位置するものではない。あくまでも派生モデルなのだ。快適さや上質さを求めるユーザーに用意された選択だ。「オープンカーに乗るハードルをなるべく下げて、たくさんの人にオープンカーに乗っていただきたい。そういう思いで作りました」とマツダの開発陣が言うように、ロードスターRFという選択肢があることでロードスターの世界は確実に広がることだろう。
機能はスタイリングの犠牲になっていない。オープンでも風の巻き込みはほとんど気にならず風切り音も意外なほど低く抑えられている。少し厚着をすれば真冬のドライブは気持ちよさそうだ。もちろんシートヒーターを備える。このクルマ自体がよく出来たアウトフィット(洋服)のようなものといえるかもしれない。価格はSのMTの324万円からRS(MTのみ)の373万6,800円まで。年齢とわず幸福な気分にしてくれるモデルだ。
ロードスター RFは純粋なスポーツカーなので、室内に荷物を置けるスペースはない。127リッターと「ソフトトップなみ」(マツダの資料)の容量が確保されている後部の独立した荷室を使えばよい。ポルシェも同じでリアルスポーツカーである718 ボクスターと718 ケイマンの室内には荷物のスペースがいっさいない。ロードスター RFはその潔い魅力を備えているのだ。
軽量コンパクトならではの軽快な走りあじを最大の武器とするロードスターに、電動格納式のハードトップが加わった。
それを聞いて、僕は少々混乱した。爽快なオープンドライブを堪能するにはロードスターで十分ではないか。軽量化の障害となるリトラクタブルハードトップによって、ロードスター本来の魅力が薄れてしまうのではないかと危惧する気持ちと、耐候性に優れたハードトップも歓迎すべきものだとの思いが交錯したのである。
だがしかし、「RF」と名付けられたロードスターはむしろ、ロードスターの魅力を高めることに成功したと思える。乗って走らせて、数メートルしてすぐに、これこそが僕が期待していたロードスターの走行フィールだと思えたのだ。
試乗を終えて戻ると、広報の女性スタッフが「いかがでしたか?」とにこやかに笑って言った。その表情は自信あり気だ。「良いクルマだったでしょ?」。
今年12月22日、マツダはロードスターに電動金属ルーフを備えた「ロードスターRF」を追加発売する。いろいろな意味でロードスターとしては異端である。異端なのだが、正直なところ本当に良かった。
「社内では、幌のモデルはスポーツカーそのものに向き合うクルマ、RFはスポーツカーのある生活を楽しむクルマだと言っているんです」。
そうした積み重ねの結果、普段はアシとして実用的に使いながら、時にスポーツカーとして鞭(むち)を入れて楽しめるクルマを求める人にとって絶好の一台に仕上がっている。率直な感想は現代版のMGBである。
ロードスターRFはクーペとしてとても魅力的なフォルムとハイレベルなフィニッシュを持ちながら、それがオープンにもなるという時点で、その他のことは大概どうでも良くなるようなキャラクターのクルマだった。また、バリオルーフの精密感あふれる動きなど、良いモノ感も抜群で、時計で言えばIWCのような所有満足度がありそうに思えた。
細かいことを言えば、変速時のATとエンジンの協調制御が甘くて変速感がナマクラであったり、カーコミュニケーションシステムの操作性が悪かったりと、治すべきところもいろいろある。が、それらの欠点に目くじらを立てる気が起きないのだ。減点法ではなく加点法で見たくなるあたり、ロードスターRFは日本車としては数少ない、プレミアムセグメント的クルマづくりができている好例だと思われた。中心価格帯は300万円台後半と高価だが、乗ってみた印象としては、逆にこのクルマを200万円台で売るイメージはないし、多くの台数を売りさばく必要もないだろう。収入や資産に余裕があり、この種の遊びグルマを欲している顧客にとっては、とてもいい選択肢のひとつになろう。
最後にひとつ。ロードスターRFがこういうクルマに仕上がったのは、制約の多い中で良いモノを作ることに懸命に取り組まざるを得なかったという環境が生んだ偶然であり、まぐれ当たりの域を出ない。マツダはロードスターRFの開発をきっちり検証して、こういうクルマづくりを本当の意味で自分のものにしていくべきだ。この経験を生かすも殺すも自分次第である。
どこから見てもサマになるロードスターRFは、新モデルとなってもやはりロードスターだった。乗る人を選ぶクルマの代表格ではあるが、RFは屋根を閉めれば普通のクルマ。「幌のオープンカーはちょっと気恥ずかしいが、時々は風感じて走ってみたい」など、今まで憧れで止まってしまっていた人にこそおススメしたい。まさにそのひとりである筆者が次に買うクルマは、もちろん……。
と、ライトウェイトオープンとしてもスポーティクーペとしても、2面性を併せ持って楽しめるロードスターRFですが、じゃあ、私が買うとしたらやっぱり幌かな。主導の幌の出来栄えがよく、特に急に雨が降った時でも片手で座ったまま閉められるほど「使える」幌なんです(個人的には最初に所有したオープンカーのMG-Bは、傾いた古民家の雨戸を閉めるくらい大変でした)。
しかし、そこはマツダもわかってらっしゃる。
オープンカー好き、ロードスターのファン、ある意味古いタイプのクルマ好きの人には幌タイプを選んでいただき、そうでない人に振り向いてもらいたいというわけです。どっちがいいかを選んで買ってもらうんでなく、好きなほうを指名買いしてもらおう、というのです。
ケイマンとボクスターのように名前を変えても良かったかもしれません。ロードスターを取っちゃってストレートに「マツダRF」とかいいかも知れないですね。実際、それくらいキャラも違っていますから、アリだと思います!
試乗時間は90分。これだけあれば会場から自宅まで行けるが問題は引き返してくるには少し時間が足りないということ…。年に何台か“返却したくない試乗車”が、また、である。量産前試作車という今回の『ロードスターRF』(発売は12月22日)は、まさにそんな1台だった。
珍しく、遅い時刻の試乗会だったが、まさに一夜にして虜にさせられた…のかもしれない。
全体的にロードスターRFはマツダがソウルレッドに続くイメージカラーとしてアピールしているマシーングレーがよく似合うシックなカッコよさに加え、機能面やインテリアを大人向けとし、オープンカーのネガティブな部分を減らしたユーザー層の間口が広いロードスターというコンセプトを忠実に実車に落とし込んだクルマといえます。
文句なしの格好よさに、余裕のパワーとコンフォートにふった乗り心地。それでいてロードスターらしい、一体感のある走りも楽しめる。最近の日本車にはない、スペシャリティカーであり、デートの足に最高の1台だ。このクルマがあり、一緒に乗ってくれるパートナーのいる人生は、まさに幸福といえるだろう。
生まれながらの名車誕生! マツダ ロードスターに新たに追加された<ロードスター RF>(RF:Retractable Fastback/リトラクタブル・ファストバック)は、そんな表現が相応しい1台だった。
とはいえ、ここまで記したネガは全て細かな話であり、期待の高さゆえでもある。トータルで評価すれば、ソフトトップを備えたノーマルのロードスターに比べて、明らかに上質な大人の世界観を作り上げている点は高く評価できるだろう。
またキャラクターをしっかりと分けたことによって、ロードスターの全体が持つ世界観自体にも広がりが生まれたことも間違いない。それに僕自身、ソフトトップとRF、マツダ ロードスターならどちらを買う? と聞かれたら、迷わず「マツダ ロードスター RFがいい!」と答える。要はそれだけ気に入っているし評価している。
やはり第一にスタイルが美しく、スポーツカーの魅力のひとつである眺める楽しさが存分にあるのが最大のポイントだ。特にリアの斜めから見た姿は、購入したら何度も見返す部分だろう。さらに走りに関しても2種類が楽しめる点が魅力。クーペ的な走り、大人っぽい落ち着きを感じる走りがあって、さらに屋根を開けると違うクルマが出現する。コンソールのスイッチを上に上げて信号待ちで屋根を開けると、途端にクルマ全体が軽くなったような感じを受ける。