フィーリング

ハンドルを握ったのは、しなやかなナッパレザーのシートを装備したVSグレードの6速AT車だ。ロードスターRFにはスタンダード グレードの「S」、レザーシートなど装備を充実させた「VS」、そして走りに注力する「RS」の3グレードがある。RSは6速MTのみだが、SとVSにはMTモデルとATモデルの両方が用意されている。MTモデルの楽しさは、素のロードスターで十分に確認しているし、メタルトップを備えたロードスターRFの最大の魅力は快適さや上質さだ。ならばATモデルだろう! というわけだ。

まずは、ルーフを閉じた状態で走りだす。やわらかなナッパレザーのシートの座り心地が気持ちいい。まるでなじんだジャケットを羽織るように、ぴったりと身体をホールドしてくれる。夜間ということもあって、1クラスも2クラスも上のプレミアムカーに乗っているようだ。エンジン音や震動も通常モデルより格段と抑えられている。

続いてオープン状態に。ボタンひとつ、10秒ほどでオープン完了。時速10km以下であれば、走行中も開閉できる。前方視界は、通常のソフトトップモデルと同じ。頭の後方の抜けた場所から聞こえる音や風の存在もソフトトップと同じだ。斜め後を振り返れば残ったピラーが目に入るが、前を向いて運転していれば、普通のロードスターと変わらないではないか。ただし、風の巻き込みは本当に少ない。オープン状態でも快適性は素のロードスターよりもロードスターRFの方がよい。開放感はそのままに快適度だけ高まっていたのだ。

素のロードスターが1.5リッターなのに対して、ロードスターRFには北米仕様と同じ最高出力116kW(158馬力)/最大トルク200Nmの2リッターエンジンが搭載されている。これに組み合わせた6速ATは、1.5リッターよりも太いトルクを使って早め早めにシフトアップさせてゆく。ソフトトップよりも重量が増えたとはいえ、ロードスターRFの重量は1130kgしかない。3000回転あたりを使いながらも、夜の首都高速の流れを簡単にリードしていく。意外と速いのだ。ステアに対するクルマの動きは、通常のロードスターよりも穏やかだ。専用のボディ補強やパワステや足回りのセッティングもあってか、ヒラヒラという軽快感よりもドッシリとした落ち着いたフィーリングが強い。

もともと静粛性が高いうえに、エンジン回転が低く抑えられており、クルマの動きもマイルド。ドライバーが感じる刺激は、ソフトトップモデルほどではない。しかし、余裕という点ではロードスターRFが1枚も2枚も上。ゆったりとした気分で夜の首都高速のコーナーをクリアしながら、クルマの挙動を確かめてゆく。そこでうれしいのが、ロードスターが本来持っている人馬一体の感覚だ。飛ばさなくてもクルマとの対話が楽しい。また、これほど静粛性が高いならば、助手席との会話も、より楽しくなる。

ソフトトップのロードスターは、文句なしに素晴らしいクルマだ。しかし、布でできたソフトトップは、音や熱を遮断する力が弱い。走行中はうるさいし、夏は暑く冬は寒いのだ。また防犯上、布は心配という人もいるだろう。そういう意味で、ハードトップを求める声があるのは納得できる。そして、ロードスターRFは、そうしたニーズに応えるだけでなく、「素のロードスターとは違った新たなファストバックというスタイル」「余裕あるパワーの2リッターエンジン」「上質なインテリア」まで、追加されていたのだ。

10km/hまでなら13秒というごく短い時間で開閉するハードトップを備えたロードスターRF。側面から見た印象はデザイナーの意図どおりかなりスタイリッシュで上質感が高い。大人っぽい印象がぐっと増しているのも事実だ。走りでも特筆すべきことがある。

乗った印象はかなりいい感じだ。2リッターだけあって走り出しから力がたっぷりあると感じられる。最高出力は6,000rpmで最大トルクは4,600rpmで得られる設定というだけあって、回して楽しむエンジンだ。とくにマニュアル変速機モデルではマツダの開発者がことあるごとに強調する「人馬一体の走り」が体感できる。

試乗は東京都内だったのでコーナリングでのキャラクターは垣間見るというだけだったが、握りの感触がいい小径ステアリングホイールを操作してカーブを曲がる感じは心躍るものがあった。大人っぽさを重視したというだけあって、やたらクイックではないが応答性にすぐれかつ正確。日常的にドライブを楽しめるクルマに仕上がっている。マツダによるとゆっくり切ったときのアシスト量を多めにして応答性を高めたそうだ。

静粛性もかなり見なおしたとマツダでは説明するが、いっぽうでエンジン排気音は積極的に聴かせる設定だ。モデルによってはエンハンサーも搭載しているぐらいで、乾いた中音域の響きは心を高ぶらせる役割を果たしている。それと相性がいいのはやはりマニュアル変速機だ。フライホイールは軽めなのでアイドリングでクラッチミートをさせるとエンストしそうになるが、ほんの少しエンジン回転を上げるだけでスムーズな発進ができる。扱いにくさは皆無。それでいて先にも触れたように、エンジンを積極的に上まで回して加速していく楽しさはかなりのものだ。

オートマチック変速機モデル「VS」はマニュアル車とはややキャラクターが違う印象を受けた。乗り心地が少しソフトになって、エンジン回転というよりトルクで走らせる感じだ。先にシャープなマニュアル車に乗ってしまったのでとくにそう感じたのかもしれない。もちろんこのクルマが退屈というわけではない。トルコン式のギアボックスは賢く、有効なトルクバンドをしっかり使ってくれ走りは力強い。トランク容量はソフトトップモデルと「ほぼ同等」(広報資料)の127リッターで、機内持ち込みサイズのキャリーオンラゲッジを2つ収納できるという。室内に荷物用のスペースはないけれどスポーツカーなので割り切るべきだ。

車体は軽いけれど脚まわりにとびはねるような軽薄さはなく、クローズドのクーペの姿かたちから期待される大人っぽさだ。あらゆる場面でしっかり洗練性が感じられる。

スタイリングは今回の開発責任者の中山雅史氏がデザインのとりまとめも兼任していたこともあり破綻なく、張りのある面と緊張感のあるラインとが工芸品のような美をつくりだしていると思う。とりわけ操縦席からボンネットを眺めていると、すばらしく“いいもの”感がある。オーラと表現したほうがいいかもしれない。それがオーナーのプライドをしっかりくすぐってくれるのだ。

小ぶりで握った感触のいいステアリングホイールといい、節度感があり意図したゲートに気持ちよくおさまるマニュアルのシフトレバーといい、よく出来たスポーツカーの常として五感を刺激するクルマに仕上がっている。

エンジンサウンド(吸気音と排気音)は中音域の小気味よいものだ。回転をあげていったときの音といい、シフトダウンのためにアクセルペダルをいちど踏み込み回転あわせをするときにやはり回転があがったときの音といい、このクルマを手にいれたことのご褒美といってもいいのではないかと思うほどだ。

兎にも角にも、ロードスターがRFとなったことで車格感がひと段階上がったように感じるのだ。例のヒラヒラと舞うような走り味は影を潜めた。それはそれでロードスターの魅力には違いないのだが、そのヒラヒラ感は、時には頼りないロール感として意識することもあったし、強い気持ちで攻め込むのを躊躇することもあった。だがRFは、そのあたりのヒラヒラ感が薄れ、どっしりと地に足がつくようになったのである。

ルーフに不快な重量感を意識することもなかった。圧倒的な開放感が欲しければ、迷うことなく標準のロードスターを選択すればいい。だが、余裕ある動力性能と洗練された走りを望むならRFはアリだと思う。僕はその走り味がとても気に入った。

そういうこともあって、RFももちろん6段MTで気持ちよく走ったが、MTに対する6段ATの印象も相対的に上がっている。クルマまかせでも、ちょうど2リッターエンジンのおいしいところを引き出してくれるのだ。もともとロードスターの6ATはトルコンATとしては 屈指のキレ味であることもあり、とくに今回のVSような上級グレードでは、6ATのほうがクルマ全体のリズム感にはマッチしているように思えた。

慣れてくると、通常の右左折時でも、アクセルの微妙な動きに車体の姿勢が敏感に反応する様子が分かるようになる。40mmのショートストロークを誇る6段MTは手首の返しだけでコクコクと入るので、訳もなくシフトアップ&ダウンをしてしまう。

そんなことが見た目から伝わってくるロードスターRFなので、試乗会ではクルマに乗り込む前からボルテージは最高潮だった。試乗ルートは東京・天王洲アイルと横浜・大黒ふ頭の往復で、2名乗車、エアコンAUTO。試乗車はナッパレザーのちょっと上等なインテリアを持つ中間グレードの「VS」で、変速機は6速AT。エンジンをかけ、さっそくバリオルーフをオープンにして走り始めた。

しばし市街地を走ってから、首都高速道路で大黒ふ頭へ。その高速クルーズで印象的だったのは、見た目とは裏腹にオープンエア感が結構高かったことだ。オープンといえども、ソフトトップに比べると開口面積はかなり小さいため、タルガトップ的な感じかなと思っていたのだが、キャビンに適度に風が流れ込むように気流がデザインされており、気分は完全にオープンである。試乗当日は冷たい木枯らし1号が吹き荒れていたが、強力な暖房とシートヒーターのおかげでむしろ頭寒足熱の心地よさが味わえたくらいであった。

料理で人を魅了するbuonoな男性たちにとって、女性の存在は非常に大きなものである。試乗では、女性の気持ちにもなってみようと思って助手席にも乗ってみた。スポーツカー特有の乗り心地ではありつつも、意外なことに疲れない。運転に集中しているとあまり気付かないものだが、運転していなくても…? 聞けば今までのロードスターよりもしなやかさを感じられる設計となっているのだという。正直、路面のギャップをかなり拾うだろうと思っていたが、これなら助手席に女性を乗せて、美味しいものを食べにロングドライブなんてのも悪くない。走りを楽しんで、食を楽しんで、また帰りに走りを楽しむ。こんなハッピーなことはあるだろうか?

走りについては、このクルマに限っては封切り映画の結末を先に言ってしまうようで、読者の皆さんがご自身でお確かめいただきたい気もする。が、たまたま6速MTの「RS」(写真)と6速ATの「VS」の両車が比較でき、どちらも2リットルエンジンによる余裕と、日本仕様の1.5リットルのオープン+70~80kgの車重、専用サスペンションにより、爽快ながらゆったりとした気持ちで走らせていられる…そんなRFらしい世界観にクルマの挙動も乗り味も仕上げられている、とだけご報告しておきたい。

ちなみに「RS」のレカロシートはソフトトップのそれよりも身体の馴染みがいい気がし、「VS」のナッパレザーシートはしっとりとした風合いだった。

またオープン時はタルガ風に後方にリヤルーフを残しバックウインドだけ“抜いて”いるため、適度な安心感とソフトトップ同等のオープン感覚が味わえるのもポイントだ。BOSEのサウンドシステムはソフトトップ同様、トップのロック機構部分から信号を拾いオープン/クローズ時で音の設定が切り替わるそうだが、当然、このRFではさらに専用のチューニングが施されているとのこと。例によってオープン状態でも解像感の高い音質が目の高さで楽しめ、クローズ時は室内の反響分の影響のない落ち着いた音に仕上げられていた。

幌からハードトップの変更により約45kg増加。エンジンは、1.5リッターから2リッターへ変更。装備の充実など、ロードスターRFは幌のモデルに比べて100kg前後増加している。1gでも削る努力をした幌モデルと比較すると、この重量増は致命的に見える。

しかし運転してみる、ヒラヒラ感は減ったが路面にしっかり根を降ろしたような滑らかな乗り心地は大人のクルマとしてのファストバックスタイルに似合っている。電動パワーステアリングは、適切な重さで、反応が機敏であり、正確である。

今回の試乗は都内だったが、幌モデルに比較して重厚感の増したフィーリングは、高級感があって好きだ。試乗車のミッションは6速ATであったが、Dレンジに入れたままでイージードライブは勿論、アクセルに対してダイレクトに反応しRFの性格に合う。MTにそれほどこだわりが無ければ、ATを選択しても後悔しないだろう。

今回は<VS>グレードを試乗した。他にもベーシックな<S>や、よりスポーティな仕立ての<RS>がある中で、しっとりした感触で世界の高級車もこぞって採用するナッパレザーのインテリアを採用する最も上質な仕様のVSを選んだのは、マツダ ロードスター RFがうたう世界観を、最もよく表現していると思えたからだ。

そんなVSグレードの乗り味・走り味に関してはどうだったか?率直にいって、ソフトトップ・モデルよりも高い剛性感が常に感じられるため、それこそ走り出しから乗り味にカッチリとした印象を覚える。軽やかにスルッと走り出すソフトトップに比べて、先のエンジンフィールも相まってグッと前に出る感じで走り出す。

そして速度域が上がってもかっちりした感覚は持続する。屋根を閉じていれば、まさにクーペに乗っている感覚が強い。そう考えるとマツダ ロードスター RFはまず、クーペの走りが味わえるモデルと報告できるだろう。

走り味も同様に、ソフトトップ比でとにかく落ち着きを感じるのがポイントだ。ソフトトップモデルはハンドルを操作すると、間髪入れずにキビキビと反応する感覚があるが、ロードスター RFはハンドル操作に対して良い意味でほんのわずかな“ため”を感じさせてしっかり動く感じがある。その様は欧州車を思わせる好印象だ。

実は走り味に関しては、マツダ ロードスター RFにはネガティブな要素がある。というのもリトラクタブルトップの採用によって、重量が増しているばかりでなく、ボディの高い位置に重量物が与えられるため、重心位置は高くなる傾向にある。つまりハンドル操作に対してクルマはグラリと動きやすい特性となる。

しかしRFでは、その動きやすさを逆手にとって、ハンドル操作に対して先のような好印象を作り上げた。具体的にはハードなルーフを得たことによって高まるボディの剛性を、ある部分ではコントロールして低めてあげて、ハンドル操作に対してキレイな動きが出るような味付けがなされているわけだ。

また重量が重い、と記すとネガティブに思えるが、乗り味そのものに関しては重い方がしっとりとした確かな感触を生み出しやすいこともあって、RFは走らせるとソフトトップにはない、上質で大人っぽい、そして骨太で逞しい乗り味・走り味を生み出している。

そうした味わいがあるだけに僕は、このVSグレードはオートマチックトランスミッションで転がすのが相応しい・・・と思ってAT仕様から試乗したのだが、路面の段差を通過する際の振動が大きく、屋根を開けているとAピラー周りがソフトトップ・モデルよりも振動している感覚を受けた。

この辺りはマツダのエンジニアも認識しているネガな部分で、ATモデルにはセンタートンネルを補剛するパーツがないことが理由としてあげられる。またマウント類がソフトなため、パワートレーンが動きやすいことも一因だが、今後は改善が進むだろう場所でもある。もっともその部分を除くと、やはりATで乗るとその世界観は魅力的なものだ。上質かつ頼もしい乗り味・走り味をATによるイージードライブで味わう・・・マツダが推奨する夜のドライブには、そうした走りが似合うだろう。

そしてATモデルは、先に挙げたネガを除けばATとはいえダイレクト感あるフィーリングも味わえる設定であるため、例えば少しペースを上げて走る・・・そんなシーンで光るだろうと思えたのだった。いっぽうで、VSのような大人っぽい雰囲気が漂うモデルだと、6速MTはちょっとミスマッチか? と思って走り出すと、先に乗ったATモデルよりも遥かに走りがスッキリしていて、気持ち良いドライビング・フィールが味わえたのには驚いた。やはり重量や補剛、マウントの硬さ等が関係してくるのだろう。こちらの方が振動等も少なく、VSグレードの上質な感覚にも意外なほどにマッチする乗り味・走り味を生み出していたのだ。

僕は個人的には、こうした大人のモデルならばATでまったりと味わいたいと思うが、このVSの6速MT仕様は悪くない。シフトの素晴らしいフィーリングを味わいつつ、2.0リッターエンジンの高いポテンシャルを引き出して走るのもまた一興だ。