リトラクタブルファストバック

フルオープンにするとまたもうひとつ魅力が発見できる。ロードスター RFを開発した背景をマツダの担当者は「スポーツカーに乗りたいと思っていらっしゃっても、ソフトトップのフルオープンでは敷居が高いと感じている方々の存在を意識して」と解説してくれた。時速10km以下なら13秒で開閉可能なルーフトップは閉めていれば意外なほど静粛性が高い。

オープンにしてもウィンドシールドは高さも抑えられ、かつ角度も適度に立っていて、運転していてすこし目線を上に動かすだけで空が見える。フルオープンの感覚である。といっても風の巻き込みは抑制されていて、しかも真冬にオープンでというときに備えてシートヒーターも設定されている。小さなコクピットだけれど必要なものは揃っているのだ。

まず、走りの魅力を報告する前に、最大のウリであるリトラクタブルハードトップに関して報告しよう。

電動リトラクタブルは、コクピットにスイッチひとつで開閉可能だ。ロック用の手動ヒンジはない。ただただスイッチを押し続けていれば、カラクリルーフは13秒で開き、13秒で閉じる。

まず、リアトランクが一旦開き、ルーフと分割されたリアガラスがシートバックに収まり、それに蓋をするようにルーフが重なりトランクが覆いかぶさる。閉じるときはその逆の動作となる。

その開閉は、時速10km/mまでならば作動するという。ふと思い立った瞬間にオープンエアモータリングが気軽に手に入るのだ。

とはいうものの、開放感はもちろんベースのロードスターが優る。RFのハードトップは開いたとしてもリアセクションの残る、いわばタルガトップだからだ。頭上を見上げれば星空や太陽を仰ぎ見ることができるのだが、視界のどこかにリアの存在を意識しているわけで、爽快なオープンエアモータリングを楽しむにはロードスターにはかなわない。

「より多くの人々にオープンカーの楽しさを届けたい」と謳うロードスター RFは、流麗な“ファストバック”スタイルを採ります。ハードトップを閉めたクローズド状態では、リアに向かってなだらかに傾斜するクォーターピラーが、とってもス・テ・キ。スイッチひとつで、天井部とリアウインドウがキャビン背後に収納されます。

安全な場所に停車し、いざ、オープンボタンを操作すると、電動モーターが静かにハードトップを畳んでいきます。公称値13秒、実測で14秒弱。ルーフの切り欠き形状まで“美しさ”を考慮して設計された屋根の開閉は、むしろ外から見て鑑賞したい完成度の高さ。最後に「スッ」とパーツが収まる様が、ビューティフル!

ルーフ部の製作は、リトラクタブルトップの手練れにしてドイツの名門・ベバスト社が担当します(ベバストジャパンは、なんと広島にあるのです!)。

RFで特徴的なのが、風の巻き込みを嫌うなら残しておいた方が有利なリアウインドウ。それを、あえて可動式にしたところが、いかにもオープンスポーツを作り続けてきたメーカーの判断です。ロードスターオーナーの気持ちがよく分かっている。これなら、前を向いて運転していれば、残ったピラーは気になりませんし、一方、適度に髪が風になぶられて、オープンエアドライブを実感できるんです!

片道約13秒というRFのルーフ開閉タイムは、マツダによれば「2016年10月現在で、メーカー純正電動ハードトップ市販車で最速」だそうだ。それはおそらく正しい情報だろうが、あえてツッコミを入れさせていただければ、現時点では最速でも、歴代最速ではない。少なくとも、先ごろまで生産されていたフランスの「ルノー・ウインド」は12秒をうたっていたからだ。まあ、ウインドは1枚のルーフパネルが反転するだけのシンプル構造だったから、技術的にはロードスターRFのほうが何倍も困難だろうけど……。

現時点最速のハードトップ開閉を実現している最大のキモは“カバーが持ち上がる→トップを折り畳む(もしくは展開する)→カバーが下がる”という3動作がブツ切れでないことだ。ひとつの動作の終わりと次の動作の始まりが、並行してシンクロしながら、結果的に全行程がひとつの流れで進行する。また、カバーやトップが最終的にロックされる瞬間も“ガチャ”ではなく“スッ”という感じ。ここもチーフデザイナーの中山氏やトップ開発エンジニアのゆずれない一線だったそうで、実際に見ると、なるほど見事なものである。しかも、10km/h以下なら走行中でも開閉可能。実際のオーナーになって、気分次第でトップを開け閉めするシーンを想像すると、こういう細かい親切はなんともありがたい。

美しいラインを持つ電動式のハードトップは、センターコンソールのエアコンダイヤル左下にあるスイッチ一つで開閉ができる。先代では手動式だったトップロックを電動式とすることで操作は簡略化され、要する時間はたったの13秒で、世界最短となる。10km/h未満であれば、走行中の操作も可能だ。

オープンにするためスイッチを上に押し続けると、「クォーン」というモーター駆動音と共にリアルーフが持ち上がり、同時にフロントルーフ、ミドルルーフ、バックウインドーがオーバーラップして流れるように格納される。これに合わせてリアルーフが「スーッ」と元の位置に戻り、作業完了だ。逆方向のクローズの動きも同様で、いずれの所作もスマートで美しい。三眼メーター左側のインフォメーションディスプレーには、ルーフの動作を5段階で視覚化したアニメーションが表示されるので、振り向かなくともルーフの状態が把握できる。RFならではの装備である。

試乗会場には、ルーフの動きを説明するための2つの模型が置かれていた。「白い方の初期のものは複雑すぎてすぐにボツになってしまいました。黒い方は最終型に近いものです」と説明してくれたのは、ルーフシステムの設計者であるボディー開発部の松本浩一アシスタントマネジャーだ。

それぞれを実際に動かしながら、ソフトトップを収めるための小さな空間にハードトップ全部を美しく折りたたむことができないこと、その後リアルーフを残したファストバックスタイルへ移行したこと、さらに新しい収納ラインの提案に対応するため途中からリンクの動きの設計をやり直したことなど、話は尽きない。静かで落ち着いた語り口ながら、話の内容はみっちりと詰まっていて、まさに大きなルーフを狭い空間に詰め込むシステムを開発した人らしいものだった。

まずはクローズド状態で街中に走り出す。車内は通常のクーペのような感覚で、聞こえてくるのはちょっとくぐもった2.0Lエンジンの音だけ。ルーフの内側に張られた3重構造のヘッドライナー、リアホイールハウス、リアフロア、トンネル部など各所に追加された遮音材や吸音材の効果でNVH性能が圧倒的に高く、ソフトトップモデルにはない落ち着いたドライブが楽しめる。

せっかくなので交差点で停止した間にオープンに。フロントフェンダー越しに前方を向いている限りでは、通常のオープンモデルと同様の解放感が味わえる。走行中に両サイドのウインドーを上げておけば風の巻き込みはほぼゼロで、高回転まで回せば、RSに標準装備のインダクションサウンドエンハンサーで強調されたエンジン音が頭上の空間からダイレクト飛び込んでくる。

スタイリングと並んでもう1点素晴らしかったのは、バリオルーフの作動のスマートさ。大型のルーフの格納は「ガタン、ゴトン、ガチャガチャ」という音と振動を伴いがちなのだが、ロードスターRFのそれは「カチャッ、ウィーン」というとてもスムーズで精密感が漂うもので、格納が終了するときはテーブルにモノをそっと置くようにCピラー部がボディと一体化する。デザインそのものだけでなく、所作の美しさにここまでこだわったクルマは稀有だ。

帰路はクローズドでドライブ。オープンカーは屋根を閉めると何だか残念な気分になったりしがちなものだが、ロードスターRFの場合、クローズドにしたらしたで、ちゃんと気密性が保たれたクーペのような居住感になり、静粛性も結構高い。オープンとクローズ、一粒で二度美味しいという感じであった。

リトラクタブルハードトップの開閉で、ルーフが後方に戻り閉じる時、ガコッともガチッとも言わず、スーーーーっと閉じ終わる。このこだわりは日本ならではの感性。(開発主査兼チーフデザイナー・中山雅氏)

ひとつひとつがコンマ1ミリ単位で噛み合うリトラクタブルハードトップの機構の中でもココのパーツは飾っておきたいくらい美しい。(ルーフシステム設計者・松本浩一氏)

ハードトップの開閉は12~13秒程度で完了する。操作はインパネ中央の下よりにあるスイッチを上下させるだけ。ルーフのロックを外すという行為も不要だ。10km/hまでなら走行中でも開閉が可能だということで、クルマをゆっくりと発進させながらルーフをオープンした。オープンカーは走りながらルーフを開けた方が絶対にカッコイイ。スイッチは押し続けないとならないので、本当にゆっくりと走りながらの操作。かなり空いている道じゃないと、この快感は味わえない。

ルーフを閉めて走った際の快適性はよく、クーペそのものの乗り味を味わえる。とくに風切り音はよく抑えられていて、ソフトトップのロードスターとは一線を画す静粛性を実現している。55×40×25cmサイズのバッグを2個搭載できる容量のトランクも備え、ハードトップタイプのオープンルーフを持つ2ドアモデルとしてはかなり高い実用性を誇ると言える。

開いた状態では天井の頭の上部分しか開きません。気になるのは開放感でしょう。

答えから言うと、予想以上のオープンカーらしさを味わえました。ただし、リヤウインドウ部分はルーフとともに収納されますので、風の流れも適度に感じられます。長めの髪が巻き込むほどではありません。これって結構オープンカーへ理解のない女性に納得してもらうのには説得力あるかも知れません。

5個のモーターとパズルのようなリンクで作動するルーフの開閉機構はスムースな上、動きの最後は速度を落としそっとするなど、所作がとても上品。このメカの開発には担当エンジニアの相当な思いが込められているのだが、ここに全容を書くには画面を延々とスクロールしていただくことになるから残念だが詳細は割愛させていただく。

ちなみにクローズ状態では走行中、まるで固定ルーフ車のような静かさ、密閉感に感じたが、バックウインドウに4mm厚の強化ガラスを用いたり、各部の穴を埋めたり遮音材、制振材を適宜配置するなど、外からはわからない多数の手当てがしてある、という。

オープンカーを購入する理由は、オープンにした時の気持ち良さである。しかし何時でも天気が良い訳ではないし、暑さ、寒さをガマンしないといけない事もある。手動であると停車しないと開閉出来ないので、空を見上げながら勇気を持って幌を開ける必要がある。また、ルーフが電動でも走行中は開閉出来ないオープンカーもある。しかし、RFは10km/h未満の速度なら走行中でも室内のスイッチを押すだけで、ルーフの開閉がわずか13秒で完了するので気楽にオープンを楽しめる。

またリアルーフが残る事により、閉塞感より包まれる事による安心感があり、リヤウインドウの前に配置された透明なアクリル性のエアロボードが効果的に働き、室内の巻き込みはロードスターより少なく、大人のオープンエア・ドライブが楽しめる。

流石に高速道路では、風も巻き込みが多くなり、騒音に車内が満たされてしまい、お気に入りの音楽を楽しみながらの長時間ドライブは難しくなる。一方、クローズドすれば、座高の高い私には髪の毛がルーフに触れそうになるが、ロードノイズは少なくBoseサウンドシステムを楽しめる車に早変わりする。

試乗中、オープン状態を試すこともできました。RFの電動ハードトップはマツダの調べでは電動ハードトップとしては世界最速の13秒という速さでルーフが開閉され、ルーフ開閉の際の動きも大変静かかつスムースです。オープン状態で走るとオープンカーらしい解放感は当然ソフトトップに劣りますが、私個人はオープンカーがあまり好きではないこともあり、RFでも解放感は十分に感じました。さらにRFは後方のピラーがある分で風の巻き込みや風の音がソフトトップに対し劇的に軽減されているので、オープン状態を長時間楽しめそうなところもRFの魅力となるでしょう。

試乗は晩秋で木枯らしの強い夜であったが、風の巻き込みはミニマム。これなら髪の長い女性でも、それほど苦にならないはず。それでいて、オープンカーらしい開放感は十分にある。静粛性も布のトップの普通のロードスターよりも高く、きっと隣席との会話も弾むことだろう。

また、中山さんはルーフの開閉操作時の所作にまでこだわった。「エレガントなデザインのクルマなので、ルーフの開け閉めの行動も美しくやってもらいたい」とし、センターコンソールにあるスイッチひとつで、指一本で全ての動作が終了するように設定。その開閉時間は約13秒。10km/hまでであれば、クルマが動いていても開閉は可能だ。

しかも! ボタン操作ひとつで屋根を開けると、この印象的な後ろ姿は変わらずに、ドライバーの頭上だけが開放されるというオープン構造を持つ。これはポルシェの専売特許であるタルガトップと同じ機構か・・・と思うのだが、さにあらずで、リアのウィンドウは頭上のルーフ部分が格納されると同時に一緒に収納されるため、運転席と助手席ヘッドレストの間はオープンとなるのだ。

まずは実際にマツダ ロードスター RFのルーフ開閉動画を是非ご覧いただきたいのだが、マツダのエンジニアは今回、この構造に徹底的にこだわった。RFのような電動収納式のメタルトップのクルマは数あれど、おそらくここまで“作動”にこだわったモデルは他にないだろう。

開閉スイッチを上に押すと、このクルマのデザイン・アイデンティティでもあり、キャラクターを強く物語る例のピラー部分が、実に静かに、そして滑らかに上昇する。そして完全に持ち上がると同時に、間髪入れず頭上のルーフが2分割して重なるように後方ヘ弧を描きながら下がっていき、これと同時にリアウィンドウも2分割のルーフに重なり合うようにして下に下がっていく。そして再びピラー部分が下降を始め、最後の瞬間に“スッ”と収まる。そう、気持ち良いくらいにスッ、とだ。僕もこうしたクルマには多く触れているが、ここまで美しく滑らかにスッと作動するトップを備えたモデルは世界中を探してもない。それほど今回の開閉機構は、緻密で丁寧な動きなのだ。

ドライバーの頭上だけが開いた形で、リアの美しいピラーが残るマツダ ロードスター RFの姿は実に、心を揺さぶるものがある。そしてこの姿を眺めて思うのは、「よくこの形を選んだな」ということ。つくづく、そう思うのだ。

先代NC型ロードスターの時に、初めて追加されたリトラクタブルハードトップモデル<RHT>の姿を思い出して欲しい。RHTは、ソフトトップ以上に高い耐候性や防犯性を備えるハードトップとしつつも、オープン時にはノーマルのソフトトップと同じような開放感を持つフルオープンスタイルを採用していた。そうした経緯があることに加え、そもそもオープンカーとして世界の名車であるロードスターゆえに、今回のRFのような変化球的オープン構造を採用することは、ともすればロードスターの本質を揺るがしかねない。

みなさんが心配している開放感は、前を向いている限りソフトトップと変わらないし、リアウィンドウが開くため聴覚的な開放感が意外に高く、意識しないとリアのピラーがわからない感じだ。

また走っても風が顔の横を流れて、開いたリアウィンドウへと流れていくので、全体的な開放感は想像以上だと思っていただければ良い。また屋根に関しては、先に記した作動へのこだわりも、オーナーとなれば何度でも味わい痛感する部分だろう。そうした意味でもロードスター RFはとても魅力的なチョイスだといえる。