開発秘話
RFの名称の理由となったピラーを残すファストバック スタイルは、最初から計画されたものではなかった。計画の初期は、先代のNC型ロードスターRHTと同様に、ルーフ部をすべて収納することを検討していた。しかし、1年をかけて10案ほどを検討した結果、ルーフ部すべてを収納するのは不可能という結論になったという。
ND型ロードスターは、先代モデルよりも乗員の座る位置が後方に下がっており、ルーフを収納するスペースが先代よりも小さい。トランクの容量を削れば、それでも可能だったかもしれないが、マツダの開発陣は、「日常的に使えるトランク容量を確保するのはロードスターの絶対条件」という考えがあった。また、無理矢理にルーフを収納するために複雑な機構を採用すると重くなるし、故障の可能性も高くなる。それでも、きれいにすべてが収納できればいいが、どうやっても不格好になってしまうというのだ。
リトラクタブルハードトップを作りたいが、ルーフ部すべてを収納するのは不可能。その苦しい葛藤の中で導き出されたのが、リヤのピラーを残すというアイデアであった。しかし、そこからも開発陣の苦労は続いたという。作るのなら、きれいに格好よく作りたいと。簡単にいえば、パネルの継ぎ目がデザインをじゃましないことが求められた。完成したロードスターRFのリヤピラーまわりを見てほしい。トランク部分からドアまでのリヤピラー部のパネルの合わせ目は一直線になっている。真横から見れば、リヤフェンダーのふくらみにパネルの継ぎ目がきれいに沿っている。この美しいエクステリアを作るために、開発陣は非常に苦労したという。ルーフの開閉機構のリンクはぎりぎりまで小さく作ることが求められた。また、生産するときの組み込みは、まるで知恵の輪のようになり、非常に面倒くさいものになった。
しかも、開閉するときの動きにもこだわった。「すっと障子を開け閉めするような和の美しい所作」を目指したという。トランスフォーマーのようにガチャンガチャンと変形するのではなく、徐々にスピードを上げ、閉まるときは、そっとスピードを落として音もなくピタリとはまる。そんな優雅な動きもロードスターRFの特徴だろう。
デザインにこだわり、動きにこだわる。困難なミッションであったが、美しいロードスターRFを作り出すという理想に向かって、デザイナーも設計者も実験評価も生産の現場も一丸となって努力したというのだ。
いきなり昔話でナンですが、10年ほど前のこと。2006年に“NC型”こと先代ロードスターにリトラクタブルハードトップモデル「ロードスター RHT」が加わった時には、複雑な気持ちを覚えました。
RHTに先立つこと1年。2005年にデビューした3世代目のロードスターは、開発陣が一丸となり、パーツごとにグラム単位で重量を削ってようやく成立させたクルマでした。それなのに、いかな流行の車型とはいえ、わざわざ重たい電動ルーフを載せることはないのではないか、と。
ところが、いざフタを開けてみれば、RHTロードスターは、ソフトトップを上回る人気を博したのです! 販売台数でも、RHTの優勢は続きました。登場直後の、一時的な現象ではなく。「ロードスターを存続させるためには、このモデルが必要なんです」と力説していた担当エンジニアの方の意見は、全く正しかったわけです。
スポーツカーの開発にはピュアな気持ちが大切ですが(本当)、「売れなければ続かない」という、当たり前だけれど厳しい現実にも向き合わなければならない。3世代目ロードスターは、その壁を見事に乗り越えました。感服。
もはや“派生車種”とは呼べない重要なバリエーションとなった電動ハードトップモデルですから、現行の4世代目ロードスターでは、開発当初からプログラムに載っていました。
ロードスター RF プロトタイプ試乗会場で「技術者というのは『作れ!』といわれれば、どんなものでも作ってしまうものなんです」と、マツダの人が笑いながら見せてくれたのが、可動式ハードトップの白い模型でした。ルーフ全体が細かく8分割されていて、これならピラーを残さず、すべてキャビン背後に格納できます。ただし、構造が複雑になりすぎる上に、何より、クローズド時のスタイルがいまひとつ…。あえなくお蔵入りとなりました。
「このクルマはフルオープンカーである必要はない。しかし、我々はどうしてもオープンにこだわりたいと思いこのクルマを作った。なぜならロードスターだからだ」と話すのは、マツダ商品本部主査兼デザイン本部チーフデザイナーの中山雅氏だ。
このクルマのコンセプトは、「オープンカーを買うときにはいろいろなことを考え、購入することを躊躇するユーザーもいることを我々は知っている。そこで、何とかしてオープンカーの楽しみをより多くの人たちに知ってもらいたいと、このロードスターRFというリトラクタブルハードトップモデルを作ったのだ」と説明。
マツダは『ロードスター』をベースに、電動格納式ルーフを採用した『ロードスターRF』(以下RF)を12月22日より発売を開始すると発表した。このRFの企画はロードスター開発当初から温めていたものだという。
「なぜRFが登場したかというと、いい意味での結果論だった」とは、マツダ商品本部主査兼デザイン本部チーフデザイナーの中山雅さんの弁。ベースとなるロードスターは、ホイールベースが短いこともあり、乗員はかなり後軸寄りに座るレイアウトを取っている。その結果、「背中にスペースがなく、現在のソフトトップがギリギリ収納できるスペースしかなくなった」。つまり、「ハードトップを入れようと思ってもそのスペースが物理的にないのだ」という。そこで、当初から企画のあったハードトップの企画は進めるものの、まずは、ソフトトップを優先し開発されたのだ。
そして、ハードトップの提案時期が来た時に、改めてオープンにする意味を考えた。「それは解放感や気持ち良さだ。(ハードトップは)そのための“手段”なので、オープンになることを“目的”にする必要はないと思った」と中山さん。つまり「(ピラーなどを)残してもいいと発想は変わった。そこからあっという間にこの形は決まった」と振り返る。
中山さんは、「もし開発を“棚上げ”せずにソフトトップと同時に進めていたら、ハードトップを入れるスペース確保のため、レイアウトも変わり、ソフトトップのサイズも大きくなっていただろう」とし、「“結果として”とてもいいものが出来た」とその完成度に自信を見せた。
では、どのようにして今回のようなリトラクタブル・ファストバック構造を用いることになったのだろうか?「当然ながら、これまでの開発で実に様々な案があって、いろいろと検討をしてきました」とロードスター開発主査 兼 チーフデザイナーの中山 雅(まさし)さんは言う。
旅行用のトロリーが2つ入る実用的なトランクスペースをしっかりと確保しつつ、キレイに収納する方法を工夫して、先代のようなフルオープンになるタイプも考え(上記動画の最後にその試作案がちょこっと登場するのでお見逃しなく!)、いくつかの方式は1/5の可動モデルを作って検討も行なった。
そうした中で、今回採用されたピラーを残した案が誕生して、これが意外や悪くない・・・というか魅力的なものだったという。しかし中山氏をはじめとしたスタッフたちはこれを会議でプレゼンしても絶対に企画は通らないと分かっていたため、ある“技”を使ったのだ。
その技とは、実際にものを作って見せてしまうという強引なもの。「例えばこのスタイリングだけを絵で見せても、開放感はあるのか? と言われて不採用になりますし、説得力に欠けるわけです。そこで、スタイリングの美しさ、意外な開放感の高さ、そしてメカの作動の美しさを3拍子で用意して、一気に全ての疑問に答えるようなプレゼンを行って企画を通したのです」そうして今、我々の目の前にロードスター RFは佇んでいる。